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物音は“者”がいた場所からすぐの山道で展開してた。
武装したみすぼらしい身形の男達が小奇麗な身形の一団を相手取り、奇声を放ちながら猛威を振るっている。一方は5人の山賊、一方は宗教キャラバンと護衛の10人である。
しかし6人の護衛の内、5人は既に腹や顔から血を流して地べたを舐めていた。
そして最後の1人が、今しがた死んだ。
残すところはキャラバンの4人のみ。修道士が2人に修道女が2人。誰も彼もが戦慄し、縮こまるように身を寄せ合っている。
山賊が下卑た笑みをこぼし、その内のリーダーと思しき男が舐めまわすようにキャラバンの面々に視線を這わせる。
目が合った者から順に、小さな悲鳴が漏れた。
「ど、どうかご容赦を……」
「煩せえ!」
近くにいた修道士が懇願すると、リーダーの男は嘲笑うように斬り伏せた。
たちまち修道女達の耳を劈くような悲鳴が上がる。
「そうだ、その調子だ! いいか、口にしていいのは悲鳴だけだぞ!」
山賊の男達は奇声を上げながら嬉々として悲鳴に酔いしれ、
「次はどいつだあ?」
と煽れば、一層心地よくなる音色に興奮した。
しかしそれを掻き乱すように、ひとつの足音が草葉を割って入る。
一転して不機嫌になったリーダーがそちらへ向くと、草木を縫って近づく人影があった。
“者”だ。
「何モンだ?」
「おい、止まれ」
山賊の2人が順に口を吐くと、さらに2人の仲間を加えて“者”を包囲した。
返り血に塗れた厳つい顔が4つ。
しかし“者”は悲鳴を上げるどころか身じろぎひとつしない。
「やけに大人しい奴だな? ……ん?」
“者”の正面にいた山賊の1人が、胸の辺りが程よく隆起していることに気づき、フードを覗きこむ。
「おい! こいつ、女だ!」
場が一斉に驚きに満ちた。
「どれ、顔を見せてみろ!」
別の仲間が“者”のフードを翻す。
しかし期待に満ち溢れていた山賊の顔は、たちまち顰め面へ変わった。
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