① 隻眼の女

6/13
前へ
/41ページ
次へ
 隻眼の女は慣れた足捌きで山賊の攻撃を躱すと、まず1人目の懐に踏み入るなり逆手に構えた短剣を腹に突き立て、身体を翻すように背後へ回りこむ勢いで掻っ捌く。そのまま引き抜くがてら2人目の脳天に突き立てると、しまいに投げつけて3人目を仕留めた。  6人の護衛を相手に大立ち回りをした山賊がものの数秒でリーダーを残して骸と化し、その目にも止まらぬ戦い振りに、場にいた誰もが何が起こったのやらと放心した。 「…………」  山賊の骸を見下ろしていた女の視線が、残るリーダーへ向く。その瞬間ハッと我に返ったリーダーは早々に剣を投げ棄て、悲鳴を上げながら逃げて行った。  3人目の額から投げつけた短剣を抜き取る女。  そこへ背後から男の声。 「あのう……」  女が振り返ると、修道士が立っていた。 「どなたかは存じませんが、危ないところを助けていただき感謝致します。私共は山頂の町で神職に携わる者に御座います。……して、この度はお礼をさせていただきたく存じます。先の穢れを落とし、これまでの旅の疲れを存分にお癒しくださいませ」  ひとしきり言って、修道士が微笑む。 「…………」  隻眼の女は殊更に反応を見せようとはしなかったが、何はともあれキャラバンの後について山頂の町へ入ることとなった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加