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町中の視線を集めながら教会へ通された女は、教会では無用という理由で武器を取り上げられたのち、風呂で身を清められて客室へ通された。とは言っても、簡素なベッドと机に椅子のセットがある程度の質素な部屋だったが。
「…………」
「では私共は命を落とされた方々を導いてくださるよう、神に祈りを捧げますゆえ、失礼致します。どうぞ、ごゆるりとお休みくださいませ」
そう言って、案内を勤めた修道士の男は隻眼の女をひとり残して客室を後にした。
女は客室をぐるりと見回して、目に留まったタペストリーを仰ぐ。
赤地に白の彩色で、一対の天使が翼を広げて向かい合う、教会のシンボルが描かれている。
すると突然、女の視界が90度反転しタペストリーが上下逆さになった。
否、部屋全体がそっくり逆様だ。
ともするとシンボルが、絵柄は変わっていないのに、まるで悪魔を彷彿とさせるようなシンボルへ変貌しいる。
『上手く化けたものだ』
視界がひとりでに奇妙な動きを見せたかと思いきや、今度は女の頭の中で声がした。
野太く、低く、それでいて奥行きのある、しかし男とも女ともとれぬ声。
いずれも奇妙だが、女は一切動じない。
『しかし都合よく武器を取られてしまったな。ともあれ計画通り。あとは連中がどう動くか……見物よ』
高慢な“声”の口振りは、この状況を楽しんでいるかのようにも聞こえる。
一方その頃、教会の執務室では隻眼の女を誘いこんだ修道士が、神官の男の前に立っていた。
張りつめた空気の中、互いに顔を険しくしている。
「遂に来おったか……。しかしそれよりも先によもや賊ごときに殺されるとは、無能共め……」
そこへ2、3ノックがあって、軽装の鎧を身につけた男達がやって来る。教会を守護する教会兵士だ。
「アドバス大神官様」
「奴が来た。相当の手練れゆえ、深夜を待って寝込みを襲え」
「御意」
アドバスと呼ばれた神官と、こうべを垂れる兵士。その神職らしからぬ会話の意味するところは、間もなく判る。
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