417人が本棚に入れています
本棚に追加
「陸っ!」
人ごみの中に響いた私の声で、陸の足が止まる。
私の腕を掴んでいた彼の手はスッと離れて拳を握りしめた。
そして雑踏の中、ゆっくりと振り返った陸の瞳が私を見つめる。
まるでそこだけが時を止めてしまったかのように、私の耳には陸の声だけが小さく聞こえた。
「なんだ……覚えてたんだ」
「…………」
「じゃあ話は早い。行くぞ美里」
ふっと小さく笑った陸が再び私の腕を引く。
「ねぇ陸、髭を剃るだけなら公園でもいいでしょう?」
「嫌だね」
「だってもしも誰かに見られたら……」
必死に食い下がろうとした私に冷たく陸の言葉が突き刺さる。
最初のコメントを投稿しよう!