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そう言って水野さんは悲しそうに瞳を伏せる。
「水野さん……?」
思わず私がそう問いかけてしまったのは、水野さんの横顔がとてつもなく哀愁に満ちていて、見ている方にまでその胸の痛みが伝わって来たからだ。
けれど水野さんはゆっくりと瞼を開くと、失笑しながら言った。
「私がどうして石原美怜に負けたくないと思うのか、その理由を教えてあげる」
「…………」
「私ね、彼女が大嫌いなのよ。
仕事も恋も、望んだままを簡単に手に入れたのに……欲張りすぎだと思うのよね」
やがてエレベーターは1階にたどり着き、ゆっくりと私たちだけの空間が放たれる。
その瞬間、フロアから流れ込んで来た風と共に甘い香りが私と水野さんを包み込んだ。
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