Act.10

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「二人の過去に何があったのかは私には分からない。 だけど思うの。きっとお互いが素直な言葉で語り合えば、あなたと堀川さんは同じ思いの元にある。そんな気がするわ」 「……そうでしょうか……」 「まぁ素直な言葉で語り合うってのが生きる上で一番安易であり、一番難題でもあるのよね」 そう言って水野さんは吉岡さんが去ったエレベーターホールの方に視線を向ける。 けれど私の中にはまた陸に対する大きな疑問が膨れ上がっていた。 先に約束を破ったのが私って……。 10年後にお互いが独身だったらまたあの桜の木の下で会おうと言ったあの約束なら、まだ桜の季節までは時間があるし……。 他に陸と交わした約束なんてあっただろうか? 「じゃあ書類作成始めましょうか」 水野さんの号令に頷きデスクのパソコンを起動しながら考えてみる。
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