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しかしその女性は、俺の必死さをくみ取ったのか嬉しい情報をくれた。
「岸谷さんなら昨年、引っ越しましたよ。派遣会社が荻窪の方に寮を持ってるとかで」
「……そうですか。ありがとうございます。あ、俺、不審な者ではありませんので」
ストーカーと間違われるのも嫌で、俺はその女性に一応名刺なんてものを出して見せる。
「建築士……さんですか?」
「はい。家を建てる時はぜひ」
しっかり営業スマイルまで振りまいて、俺はアパートを後にした。
荻窪に寮を持ってる派遣会社なんて、掃いて捨てるほどあるかもしれない。
だけど俺と美里を、あの桜はきっと悪戯に巡り逢わせてくれる。
そんな予感を覚えながら俺は再び駅へと戻った。
この先にどんな失望感が待ちうけているかなんて考えることもなく───。
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