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俺にとって一番大切なのはもちろん美里だ。
それはこの10年間、他の何かに代わることなど一度もなかった。
だけど今、俺はどんな選択をするべきなのか。
夢遊病者のように駅に向かい、電車に乗り込んだ俺は結局わが家に向かうことなく会社へとたどり着く。
「ははっ」
思わず笑ってしまったのは、結局俺にはこれしか能がないのかなと感じたからだ。
壊れていた美里を知った時も、猿谷のキスを拒むことなく三軒茶屋の駅に向かって行った彼女の背中を見送った時も。
結局俺の逃げ場はここだった。
一心不乱に設計図を引くことで、受け入れられない現実から逃避することが出来るからだ。
警備室に断ってから階段を昇って行く。
珍しいことに今夜は他の設計士は誰も会社には残っていなかった。
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