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「ならば話は早い。彼女が言った通りでもう俺は長くないらしい。
しかし俺が亡き後、この事務所を任せられるのは陸しかいないと俺も思っている」
「お気持ちはありがたいですが、以前にも言ったように俺は人の上に立つような人間ではありませんから」
こうして俺が頑なに社長の後継を拒むことは、きっとこの社長は分かりきっていたことのはず。
だけど一縷の望みを掛けて俺に仕向けた刺客が、さっきの美怜だったはずだ。
確かに水野さんに説教を食らってからの社長は変わった。
それまで道具程度にしか思っていなかった美怜を、心から愛するようになったし、社員との接し方も変わったと思う。
だけど人間、誰だって変えられないこと、そして変われないことだってある。
石原社長にとって一番大切なのは美怜だ。
だけど次に大切なのは……
───この会社で働く社員であり、社員の家族。
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