Act.21

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ようやく降り立った三軒茶屋駅の北口に立つ。 ここに来るのは何年ぶりだろう。 ここから駅前通りを真っ直ぐ進んだ先に、元彼の猿谷隆弘が店舗責任者を務めるショップがある。 猿谷先輩と付き合っていた時にあのショップに足を運んだのは、彼との関係を終わらせようと決意した夜のたった一度だけだった。 ショップのオープンを一週間後に控えたあの日の夜、デザイナーとして生きる人生に挫折した私は、退職願を提出した足でオープン準備に忙しかった猿谷先輩を訪ねた。 まるで運命がそうさせているかのように、タイミング良く猿谷先輩は店のシャッターを閉じ店を出た所だった。 突然、姿を現した私に猿谷先輩は明らかに動揺しながらも普段と変わらない態度を必死に保っていた。 きっと私が会社に退職願を提出したことを、他のデザイナーの女の子から聞いていたんだと思う。
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