甘い蜜

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 わたしは、頭の中に浮かんできた素朴な疑問を口にした。 「どこで見つけたんだろう、男」 「さあなぁ。さすがのしばちゃんもまだそこまで知らんねん」 「そういう沙友里は、見つけないの? 恋人」 「あんま興味ないねん、そういうの。面倒臭いやろ、デートする時間作ったり」  空になった丼に、箸をカランと放って、沙友里は呟いた。 「ま、お眼鏡にかなう殿方が目の前に現れたら、しばちゃんだって恋する乙女ちゃんになってまうかもな」 「いるのかね、そんな物好き」 「んもー桜ちゃんっ、そんなにわたしのこと好きなんか? おらおら」  沙友里の手が、わたしの頭をわしゃわしゃと撫でる。「やめなさいよ、髪型が崩れるでしょ」と、手を払いのけた。沙友里は見た目もそうだけど、手指も、わたしよりぜんぜん綺麗だ。気合を入れてネイルでもすればもっと色気が出そうな、細くて美しい指をしている。  わたしは食べ終わった食器が載ったトレーを持って、席を立つ。沙友里も、おっとっと、なんて言いながら、後ろをついてきた。  下げ口のベルトコンベアにトレーを流した。沙友里はコンベアの奥に向かって、ごっそっさーん、と声を張り上げる。ああ、わたしに足りないのはこういうところかもしれない…と少しだけ気づいた。  沙友里が訊いてきた。 「桜は、もう講義ないん?」 「わたしは今日、これで終わり。なによ、沙友里はまだあるの」 「四講、英語の再履や」  特に何も語らず、やれやれ、というポーズをしてみせた。沙友里は再履修のことなんて気にも留めていない様子で、ケラケラと笑った。 「大阪弁の講義やったら、居眠りしてても単位取れる自信あんねんけどな」 「日本人に日本語の講義したって単位取れるに決まってんでしょ」 「ちぇー、いじわるやなあ」  なんでわたしがいじわる呼ばわりされなければならないのか。  その疑問をぐっと飲み込みながら、わたしは食堂の出口へ歩を進めた。
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