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「いきなり馬鹿正直に生身を晒しに行く必要なんかないわよ。相手が本物じゃなかったら、その人とはそれまでにしなさい。それが明日香のためだよ」
「―うん、そうするよ」
少しばかりすっきりした表情の明日香が、口で「ぴんぽーん」と言いながら、テーブルの端にある呼びベルを押した。こういうことを何の計算もせずにやっているとするならば相当な逸材だけれど、たぶん明日香は故意にそうしているのだと思う。言葉を発したときの目が、全く笑っていないからだ。
わたしがラムコーク、明日香が藍苺酒の水割りをオーダーした。乾杯はとっくの昔に澄ませたはずなのに、なぜか再びグラスをぶつけ合うと、明日香は一気にグラスの半分くらいを飲んでしまった。
「ところで、なんでわたしにそんな話を?」
聞くのは若干気も引けたが、話を振られて自分の意見まで偉そうに述べてしまったので、訊かずにはいられなかった。
「えへへ、本当は内緒にしたかったんだけど、言っちゃう」
そう言った明日香は、アルコールで頬を朱に染めていた。
「桜ちゃんなら、適当なこと言わないで、はっきり言ってくれると思ったの。ふうん、じゃあ会ってみたらいいじゃん? …みたいな感じで言う人もいるでしょ。でも桜ちゃんは絶対そんなこと言わないし」
「ははあ」
どうも、わたしが女の子っぽくなれないのは、こういう女子特有の思考回路が理解できないからなのだと思う。
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