甘い蜜

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 昔から、わたしはそれほど女っぽくなかった。  …気がする。  容姿は自分で言うのもなんだけど、それほど悪くないような気はするのだ。しかしながら、性格に難がある。そんなことを自分で言ってしまっては身も蓋もないのだが、それが紛れもない事実であるのだから仕方がない。  小学校の頃から、いわゆる可愛いものとかそういうのには目もくれなかった。どちらかと言えば、教室の隅の方で、女子同士で誰と誰が付き合ったとかの内緒話をしたりとか、びゅうと吹き込んだ風であおられたカーテンに隠れながら文庫本を読むとかよりも、男子に混じって校内を走り回ったりしていた方が楽しかった思い出がある。時にはわたしのスカートをめくろうとした男子にヘッドバットを繰り出して、流血沙汰にしてやったことさえある。あの時の、軽自動車が正面衝突したような音は、未だに忘れることができない。わたしの親は、そんなやんちゃな女の子を育てるのにいろいろと苦労していたようだが、親の心子知らずとはよく言ったもので、わたしはどんどん成長していった。  第二次性徴期を迎えれば、それまではまな板のようだった胸は黙っていても膨らんでいったし、それ以外の部分にも変化が起こったものの、わたしの男勝りな性格は何も変わらないままだった。  一応は思春期を迎える年代のなかにいたから、時に告白とかそういうものも受けたりしたのだが、付き合う男子が自分よりもはるかに女々しいやつばかりで、すぐに冷めてしまった。どいつもこいつも茹で過ぎたパスタ麺みたいに歯ごたえのないやつばかりだった。やれ、わたしが他の男子と喋っていたらそれが気に食わないとか、休みの日にどこにも出かけなければつまらないとか、挙句の果てには自分と手を繋ぎたいとかキスしたいとかそういう感情は湧かないのかと言われて、あたしは風俗嬢じゃないんだ、と一喝してやったこともある。そもそもそういうのって、だいたいの場合は、男の方からするもんじゃないんだろうか。ホットドッグプレスとかそういう本から得る知識だけで生きているからそんなことになるんだ。きっとそうだ。
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