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「桜、どないしたん。青汁飲んだあとみたいな顔になってんで」
ふいに、テーブルの向こうから声をかけられた。柴崎沙友里が、満面の笑みで近づいてきて、わたしの向かいにある空席に「おいしょー」と言いながら腰掛ける。シャンプーなのかボディクリームなのか知らないけど、沙友里はいつも、ミルクみたいに甘いにおいを連れてくる。
「桜がおってくれたから、席探す手間が省けたわ。おおきに」
「別にあんたのためにここに居たわけじゃないわよ」
「そんなツンデレなこと言うても、しばちゃんはバイセクシャルとちゃうで」
あっはっは、と豪快に笑う沙友里は、わたしと同じ大学に通う、同級生だ。そう、ここは学内にいくつかある、食堂の一角である。三講目が始まってから既に三十分くらい経った時間だからか、学生の姿はまばらだった。ツンデレっぽいことを言ってしまったのは否定しない。むしろ、おかげで目の前のトレーに載っている食べかけの昼食が急速に温度を失っていることに気づいたから、沙友里には感謝しなければならないだろう。
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