甘い蜜

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 沙友里とは、大学に入学後すぐに行われた、全学教育科目のオリエンテーションで知り合った。  あんな、わたし、入学式に出れんかってん。友達になってくれん?  そんな軽いノリで話しかけてきた沙友里は、ツーサイドアップにして触角のように頭の左右に垂れた栗色の長い髪と、バリバリの大阪弁が印象的だった。ちなみになぜ沙友里が入学式に出られなかったのかと言えば、地元の大阪を発つ飛行機が、もたもたしていたら埋まってしまったためだったという。  大学に来てまで仲良しこよしをしようとは思っていなかったけれど、さりとて誰とも話すことができないのもつまらない。わたしは深く考えないままで、沙友里の申し出に「いいよ」と答えた。それからの仲だ。  わたしも沙友里も同じ、法学部に籍を置く。文系のわたしと違って、沙友里はもともと理系だったはずなのに、よく文転できたものである。  自由奔放でいつも明るく、よく笑う沙友里と、基本的に必要以上のことは喋らずに仏頂面で大学のメインストリートを闊歩するわたしとでは、タイプに大きな違いがある。だが、そんな沙友里の周りにはたくさんの友達が集まってきて、自然とその友人たちはわたしとも関わりを持つようになった。その友人たちに、わたしはほぼ百パーセントの確率で言われることがあった。 「桜ちゃんって、なんか最初は怖いイメージあったけれど、そうでもないんだね」  怖いイメージだというのは今更否定する気も無いが、そうでもないと言われると、またそれはそれで癪に障る。しかし、わたしが反駁しようとすると、すかさず沙友里が「当たり前やん。わたしが初めて大学で友達になった子なんよ、桜は」と豪快に割り込んでくるから、わたしは黙って斜め下を見つめるくらいしかできることはなかった。悪い気などしない。沙友里が言っていることに、嘘なんかひとつもないからだ。
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