甘い蜜

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 そんな沙友里は、いま目の前でLサイズのチキン竜田丼を頬張り「うふー」だか「もふぅん」だか、とにかくそんな唸り声を上げている。よくもまあこんなに食べるものだと思うと同時に、それなのにわたしよりもスタイルがよくて愛嬌のある顔立ちをしているのが、これまた癪に障った。かと言って、わたしが沙友里のことを嫌いになれないのは、沙友里には自分にない何かがあるからなのだと思う。  よく揚がったチキン竜田をひょいと箸でつまみながら、沙友里は言った。 「ところで桜、二講の倒産処理法、受けとった?」 「当たり前でしょ、わたしのゼミの教授の講義なんだから」 「あんな、ノート、見せてくれへんか。頼む、このとおりっ」  顔の前で手を合わせて、沙友里が頭を下げる。あと五センチでチキン竜田丼に顔をうずめるくらいの高度だ。どうやら沙友里はまた講義に寝坊したらしい。 「あのねえ。あんた二日前も社会保障法のノート写してたでしょ」 「いやあ、あっはっは。今日はYouTube観てたら寝落ちしてもうてん」  まったく悪びれる様子のない沙友里は、そう言うと再びどんぶりをかきこむ。美味さを表現するためか、また「あふーん」などと(うめ)いているが、もう好きなだけ呻いていればいいと思う。静かに溜息を漏らして、わたしは鞄の中から、さっき受けたばかりの講義のノートを取り出し、沙友里の方に滑らせた。 「次からは一回ごとに食堂で一品奢ってもらうからね」 「おおー、神様、桜様、毎度おおきに」 「毎度じゃ困るんだってば」  沙友里は、頬にごはんつぶをつけたままなのもお構いなしに、わたしのノートをいそいそと自分の鞄の中にしまった。ありがとな、と屈託のない笑顔で言われてしまって、何も言い返せなくなったわたしは、だまってドレッシングにまみれたミックスビーンズを箸でつまんだ。
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