甘い蜜

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「そういえば、桜、知っとる?」 「主語が抜けてるからそもそも何のことかわかんないわよ」 「ん? あー、えーとな、明日香が彼氏作ったらしいで」 「へー。しれっとやることはやるのね、明日香も」  中村明日香(なかむらあすか)もまた、わたしたちの同級生である。明日香は文学部の学生だ。とは言ったものの、明日香が学んでいるのは純粋なる文学ではなく、地域社会学だか、都市地理学だか、とりあえず今のところ六法が友達のわたしには、よくわからない学問だった。  以前に仲間内で飲み会をした時に、明日香は「あまり男性との付き合い方って、よくわかんないんだよね」なんて言っていたけれど、わたしはずっと昔からわかっていた。そう言っている女子に限って、心の中ではどんな男をどんなふうに引っ掛けるか…ということで満ち満ちているのだ。女のわたしから見ても、明日香は母性本能とか、そういう人間の奥の方をくすぐる見た目を持っていると思うし、これまで初等中等教育を受けるために学校生活を送ってくる中で、そんな明日香をクラスの男どもが放っておいたとは、到底思えなかった。
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