ステップ6 蜜月

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広斗は先輩の顔を少しだけ見て、すぐにパソコンに視線を戻した。 どうやら表情を崩さずに、対応しようとしているらしい。 「……なんですか?」 「何、今の会話。ドキドキするからやめてよ! 仕事が手につかないじゃん!」 「別に、勝手に仕事してもらって大丈夫です」 「またお泊まり!? ねぇ! 朝飯の会話とか! ちょっと! しかも雰囲気違うし……何かあった?」 何かあったかという先輩の言葉に、動きが止まる。 答えられず、しばらく動けずにいると、隣で広斗がパソコンのキーボードを突然打ち鳴らした。 あまりの不自然さに驚いて、思わず広斗の横顔を見つめてしまう。 先輩は小さく笑い声を上げながら、その姿を指差した。 「川島、それ不自然すぎでしょ。耳赤いし」 広斗の頬が一気に赤く染まるから、なんだかわたしも恥ずかしくなって頬に熱が集中する。 先輩に気付かれないように、パソコンの影に隠れてカタカタと音を立てて、キーボードを打つ振り。 でも、心は完全に動揺していて、画面上には意味のわからない文章が出来上がっていく。 「なに、その反応! 広斗くん可愛いんですけど!」 「俺は別に!」 「うらやましい! 俺も恋した~い!」 先輩の歓声のような声に、周りからは笑いが零れた。 広斗は必死で否定しようとしているけれど、そんな広斗を全く気にしていない先輩が更に話を続ける。 「何かがあったのかぁ。あったんだろうなぁ」 「だから」 「聞きたい! 聞きたいけど! 俺、大人だしな。まぁ、君たちが幸せになってくれるなら安心だよ、お兄さんは。君たち中学生カップルを見守ってきてよかったなぁ。やっと進展したのか……感慨深いなぁ」 「……お兄さんじゃなくて、おじさんでしょ」 あ、広斗反撃。 「はぁ!? 十歳しか変わらないだろ!」 「じゅーぶんです」 「お前! 川島ぁっ!」 寝不足のテンションの高さか、広斗も朝からよく喋る。 朝はいつも不機嫌で、必要最低限の会話しかしないのに珍しいこともあるものだ。
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