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「泊まる泊まらないは別にしても、なにかあった時のため。ね?」
香取さんが微笑みながら、わたしの頭をポンポンとする。
こういうところが大人を感じさせるの。
頭を撫でるのはズルいと思う。
香取さんに頭を撫でられると、どうしてか落ち着かない。
ゆるりと見上げれば、そこには真剣な眼差しがあって、その大きな瞳に吸い寄せられそうな自分を諌めるように慌てて俯いて、「はい」と口にした。
「ま、それで川島くんのところに行かれたら俺は悲しいけどね。でも、ゆりちゃんの体の方が心配だし」
「すみません。ご心配おかけして。ありがとうございます」
「いや、俺が勝手に心配してるだけだから」
香取さんらしくない、まるで自嘲するような笑い方。
その表情に何故かわたしの胸が小さく悲鳴のような音を立てた。
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