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六月二十八日(金)午後十一時
時計を見れば、明日の出勤時間まであと五時間。
あと五時間だっていうのに、池袋オフィスに残った五人は準備に追われいてる。
香取さんはさっきからずっとパソコンとにらめっこだし、幸ちゃんと浩ちゃんは資料とデータの確認をもう何度目かわからないぐらい繰り返している。
本部の運営責任者を任されている広斗とわたしは段取りの確認。
いつもみたいに言い合いをする雰囲気はない。
それは、オフィスがいつもよりとても静かだから。
他の同期は全員調査地の群馬に前乗り出張で、今日は先輩社員も早く帰ってしまったからいない。
もちろん、なにかあれば香取さんがきっとフォローしてくれるってわかっているけれど、それでもそれを当たり前だと思いたくない。
自分たちに任せられた仕事だから、きちんとやり遂げたい。
調査地のマップと調査員のリストをもう一度確認しようと取り出した瞬間、わたしの手からそのリストが取り上げられた。
「あ」
「もう確認は大丈夫だから、そろそろホテルに行っておいで」
見上げれば、穏やかに微笑む香取さんの姿があった。
「あ、あとそれだけ」
「明日の朝イチでも間に合うでしょ。四時出勤なんだから、もう終わり」
取り返そうと試みるも、香取さんに更に高い位置に上げられてしまう。
ダメと一言返されて、再び微笑まれれば、わたしはもう頷くしかない。
香取さんは他のメンバーにも同じように、ホテルに向かうように促した。
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