ステップ6 蜜月

17/52
2801人が本棚に入れています
本棚に追加
/386ページ
朝礼の開始時間になったけれど、香取さんの姿が見えなかった。 広斗のところに泊まった翌日。 香取さんと顔を合わせることなく済んで、内心安堵している自分がいた。 別の上司が朝礼を行い、通常どおりの業務がスタートする。 広斗は朝礼ぎりぎりに眠たげに出勤してきて、朝礼後にいつもどおりわたしの隣に座った。 「おはよう」 「おぉ。お前いつ出てった?」 広斗が普通の声で話し出すから、一気に鼓動が早まる。 泊まったことを隠さないその言い方に内心焦るけれど、昨日は終電がなかったのは周知の事実。 終電がなくなったから同期の家に泊まったなんて、わたしたちの中では普通のこと。 動揺を見せずに答えればいい。 「起こしたよ。七時くらい」 「え、起こした? なんでそんなに早く出たの?」 「着替えたかったの。メイク道具も持ってなかったから」 「昨日コンビニで買えばよかったじゃん」 「忘れてたの」 「ふぅん……お前、朝飯食った?」 「食べたよ」 「なんだよ、自分だけ。俺のは?」 「広斗が食べないって言ったんでしょ。起こしたときに聞いたもん、作ろうかって」 「……覚えてない」 「聞きました。広斗が寝ぼけてたんでしょ」 「これからは寝起きで食べないって言っても食べるから、作れ」 「勝手! しかも命令! なにそのワガママ王子は!」 「それにしても眠い」 「……人の話、聞いてるの?」 「目が開かない」 「まぁ、確かに今日は凄いね。栄養ドリンクに頼るしかないわ」 「ちょっと買ってきて」 「自分で行きなさい。自分で」 「……ちょっとストップ! 待って! 俺、色々突っ込みたい!」 わたしたちの会話に毎度のことながら、先輩が声を上げた。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!