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父の死から数年経ち、ずっと大人になったけれど、私はどこにも進めずにいる。
もう卓也と会うことはないと思っていたのに私たちは結局まだ一緒にいて、その関係は以前よりもずっと曖昧になっている。
一つだけ変わったことは、卓也への信頼がなくなったこと。
正確に言えば、卓也に限られているわけではない。
恋人となる人間への信頼は、もう誰にも持つことはないだろう。
愛されていると感じない。
愛しているとも思わない。
それでいい。
きっと私が愛する人は、いなくなってしまう運命だから。
愛されていると思うから、落胆する。
愛してしまうから、苦しくなる。
あんな思いは、できることならしたくはない。
大切な誰かが離れていくのはもうたくさん。
卓也のことも、父も母も兄のことも。
過去を思い出せば、眩暈がする。
苦しくなったり、悲しくなったり、人間って忙しい。
感情が揺れ動かないように、体の中から溢れ出しそうになるものに必死で蓋をする。
期待しない。
信じない。
愛さない。
そう、小さく心の中で唱えながら。
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