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化粧室に向かおうと席を立つと、足元が少しだけ揺れた気がした。
一瞬、心臓がヒヤリとしたけれど、揺れはすぐに止まった。
化粧室で肌に残っていたルースパウダーを洗い流して、乾燥防止にマスクをつける。
身なりを確認してから扉を開けたとき、奥の化粧室から隣の席の彼が出てきた。
彼も同じようにマスクをしていて、お互いに目だけしか見えない状態で微笑み合った次の瞬間、機体が細かく揺れ出した。
「あっ!」
内臓が浮く感覚に高まる恐怖心。
足は力が入るどころかその恐怖で震えだしたようで、膝から崩れ落ちそう。
どうにか壁につかまった私に彼が手を差し出してくれる。
「大丈夫?」
「すみませ……きゃっ」
機体が再び揺れだして、耐えきれず、彼の腕を掴んだ。
小麦色の肌に黒い模様に重なる白い指。
自分の指なのに、ひどく頼りなく見える。
「結構揺れるね。席に戻ろうか」
腕に掴まっていた私の手を取り、彼は通路を進んでいく。
私を席に座らせると、ベルトをするように促した。
「大丈夫だから」
耳に届く優しい声。
大きくて温かい手に頭を撫でられるけれど、なにも言えずに頷くだけで精一杯。
視線の先にあるその瞳が柔らかく細められるのをただ見つめ返した。
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