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食事を終えてしばらくすると、飛行機が着陸態勢に入った。
さっきまでは初めての国際線のビジネスクラス食を楽しんでいたというのに。
思わず「美味しい」と零れてしまう程だったのに。
まさに天国から地獄。
恐怖の感覚に備えて目を閉じてシートを握りしめたとき、
「大丈夫?」
そう問いかける声が聞こえた。
隣を見れば、その瞳を柔らかく細めてこちらを窺うように見ている彼がいた。
「涙目」
「だって……」
「俺は高所恐怖症だから、なんかわかるけど。それにしても必死だから。飯の時とは大違い」
悪戯っぽい笑顔が目の前で弾ける。
初対面の人に噛みつくわけにもいかず、「笑わないでくださいよ」と呟くにとどめたと言うのに、彼は更に可笑しそうに笑う。
「……落ちる感覚が苦手で」
「そっか」
「だって、無防備じゃないですか。落ちるのに、座ってるだけですよ? シートベルト一本ですし」
こちらの主張を聞いているのかいないのか、彼の喉がククっと鳴る。
「それなら、帽子被ってみる?」
「……帽子? 被ったら変わります?」
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