二十年後…

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不意に一陣の風が吹いて、桜の花びらを空に舞い上げていく。その風の中で、尊が口を開いた。 「……小晴?……今、幸せか?」 尋ねられて、小晴は花吹雪から尊へと視線を合わせる。 その眼差しと、空気を伝って感じ取れる尊の息吹は、小晴のあの日の記憶と少しも変わっていなかった。 「ママ――っ!」 その時、小さな子どもの声が響いた。小晴が振り向くと、その男の子は駆け寄ってきて小晴の足に抱きついた。 「どうしたの?一人で来たの?」 小晴がその男の子に、優しく問いかける。 「ううん。パパと来たの」 と、その子が指差した先、桜のトンネルの向こうに尊も目を遣ると、そこに一人の男性が立っている。 「パパがね。タコ買ってくれたの」 「タコ?」 「あのね。お空を飛ぶんだって。川のところでパパが飛ばしてくれるって!ママも、ほら、来てごらん!」 と言いながら、小晴の息子は彼女の手を引いて連れて行こうとする。 小晴は我が子に引っ張られながら、尊へと振り向いた。そして、視線を絡めて見つめ合うことで、言葉にならない想いを交わす。 たった一瞬、たったそれだけで十分だった。 最後に見た微笑みが、お互いの心にずっと残り続けた。
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