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女性である自分が着用している服はいわゆる学生服。紺の生地で作られたスカートと上着、インナーの白いブラウスにワンポイントの赤いリボン。ごく当たり前でありふれた女子学生の服を着た女、それが自分だということをそこでようやく確認し終えることができた。
「なんだろう・・・ほとんど・・・記憶にない?」
自分が何者だったのか、その記憶が全くと言っていいほど頭から抜け落ちている。自らの性別さえ忘れているくらいなのだからそれはなにもおかしいことではない。しかし女性ということや学生服といういわゆる一般的な知識までは抜け落ちていない。まるで何かしらの不都合を覆い隠すためだけに一部の記憶が無くなっているかのようだった。
「ここはどこ? 私は誰?」
名前すら思い出せない自分が今どうしてこのような場所にいるのか、わからないことだらけな現状から漏れた言葉は、典型的な記憶喪失者が漏らすとされる自問の言葉だった。
「ん? 何か音が聞こえたような・・・」
自分のことがわからず、この場所のことも皆目見当がつかない。これからどうしたものかと頭を悩ませているその時だった。岩肌が剥き出しの荒野、その一方向から物音が聞こえてくる。今自分が居る荒野は場所にもよるのだが、アップダウンが激しいところも多いため遠くまで完璧に見渡せるわけではない。その見えない部分からなにかしらの音が聞こえてきたようだ。
「誰かいるのかな? 助けてもらえるとありがたいんだけど・・・」
何もわからないことだらけの現状からの脱却を目指す彼女。そのために頼れる人がいることを祈り、音がした方向へとゆっくり足を進めていく。
「体が痛い・・・」
岩肌剥き出しの固い地面で眠っていたためだろうか。関節や皮膚の一部に痛みがある。時間とともに薄れていくと思われるその痛みが、ここが夢の世界ではないということを物語っている。
「えっと・・・この先かな?」
隆起した荒野を越えていくように、彼女は足を進めて歩く。そして隆起した荒野の向こう側が見えるところまで歩を進めた時、その先で起こっている出来事に言葉を失った。思考が完全に停止し、体の痛みが夢ではないことを物語っているということを一瞬で疑いすらした。それだけ異様な光景がそこには広がっていたのだ。
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