第一話 小田カキヲ 1

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俺の隣に横たわる女の目玉は抉り取られて窪んじまっているし、耳は切り取られているから聞こえているかどうかもわからない。  鼻はそれこそ本人に聞いてみないとな。そんな虫の息の女だ。    「にわ」「が」「くる」  庭が来る。またこれだ。これしかいわなくなっちまった。  正確には掠れた声でいああううといっているんだけだが、これほど喉が干からびるまでに何度も訊かされてきたので意味はわからずとも単語は訊き取れる。  やたら勘に障るのでガムテープで口を閉じてやりたいが、残念ながらこの遊びは全員が主役であって、同時に舞台に存在はしているものの、声は訊こえど触れあうことはできないから俺にはどうしてやることもできない。  俺以外の役者は腐ったハムばかりだったし、実際いまも腐り続けている。  同情するよ。この女はただ仕事としてこのゲームをプレイしただけだ。  死ぬつもりなんてなかったし、ヒトとしての機能を失う覚悟なんてしていなかったはずだ。    俺はこの女を別に好きだったわけじゃない。    同じ職場で働いているくせにプログラマーを見下し、まるで世界が違うのよとでも言いたげに医者だ公務員だと男漁りを繰り返していた下劣な女だ。  
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