第2話 影

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第2話 影

人形は 「アメリア」と名付けた。 神の御業・愛される者 と言う意味があるらしい。 由依は憧れのドールが手に入ってとても嬉しかった。 しかも、 寿哉がコツコツ何年もかけてお金を貯めて プレゼントしてくれたのだ! …自分は本当に幸せ者だ… 本当にそう思う。 思うのに…何故だろう? 気持ちがザワつくのは…? 由依はアメリアをそっと抱き上げる。 …深い深い青い目… まるで生きているかのように 光を反射し、そして その瞳に由依を映し出す。 幼き日… 女の子ならほとんどが憧れる 「お姫様」「お嬢様」のヒロイン…。 女の子は人形にその夢の全てを託し、 憧れの名前を授ける。 そしてドレスを着せ、髪を結い 話しかける。 まるでその子の母親のように…。 いわば人形は、 少女達の分身なのだ。 そう、アメリア。 あの子が家に来てから…いいえ、 あの子を選んだ時からよ。 由依は思い返す。 あの日以来、いや、あの時から 寿哉はアメリアを見るようになった。 …二人でいる時、 前は自分だけを見てくれたのに… 馬鹿馬鹿しい、と由依は想う。 相手は精巧に出来ていると言っても、 単なる人形ではないか。 でも…。 由依は不意にパソコンを立ち上げ、「ピグマリオンコンプレックス」 と検索する。 ピグマリオンコンプレックスとは… 狭義には人形偏愛症(人形愛)を意味する用語で、 感情、心を持たない人形を愛する性癖。 広義では女性を人形のように扱う性癖も意味する。 ピグマリオンコンプレックスという呼び名は、 専門用語ではない。 流行語的ニュアンスで広まった和製英語の一種である。 …Wikipediaより 別に、 そういう嗜好の方々に偏見を抱いている訳ではない。 自分自身にもその傾向はあると思うし、 と由依は思う。 だけれど、 もし寿哉がアメリアに恋愛感情を持ったとしたら…。 顔もスタイルもアメリアには叶わない…。 しかも、 アメリアは心と感情、声を持たないのだ。 だからこそ、 寿哉の脳内で完璧な女性として想像されてしまう。 人間である自分には勝ち目が無い…。 現に寿哉は、 時折アメリアを優しい目で見つめる時がある。 それはほんの少しの時間だけれども。 この部屋に来た時、帰る時、 彼は必ずアメリアを見るのだ。
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