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第1話 きっかけ
「後ろ姿は…良し!横、良し!」
由依は鏡の前で最終チェックをしていた。
これから恋人の元木寿哉(もときとしや)
とデートなのだ。
腰まで伸ばした褐色の髪は見事に手入れが行き届き、
ストレートの艶を誇っている。
服装は黒を基調に白いレースをゴージャスにあしらった、
俗に言うゴスロリのワンピースだ。
色白で彫が深く、
黒く澄んだ大きな瞳を持つ由依によく似合っている。
「まるでお人形のように可愛らしい」
これが、幼い頃から現在に至るまで
永瀬由依によく言われる容姿を表す言葉だ。
恋人の元木寿哉(もときとしや)は
大学二年生の由依よりも3歳年上。
大学を卒業して社会人一年めだ。
由依が大学を卒業したら
二人は結婚する。
寿哉はその為に仕事を頑張っていた。
出会いは、由依が3歳の時。
隣の家に寿哉が引っ越して来た。
それが切っ掛けでよく遊ぶようになり…。
二人が正式に付き合い始めたのは、
由依が高校を卒業してからである。
一足早く寿哉は理系の大学に行っていた。
大学入学と同時に一人暮らしを始めた二人だが、
お互いの部屋に入り浸る事もせず
今時珍しいくらいの真面目な交際ぶりに、
周囲も好意的な目で見守っていた。
「おおきくなったら、
としやにいちゃんのおよめさんになるの」
由依の小さい時からの口ぐせだったらしい。
寿哉との今日のデートは、
彼の勤めている会社の最寄り駅で待ち合わせだ。
由依は戸締りをして部屋を出た。
寿哉と一緒の時の服装は、
いつも「お人形」を意識している。
「人形」を意識しだしたのは、
由依が小学校1年の時だ。
たまたま母親と
寿哉の家に遊びに行った際
彼の卒園アルバムを見た。
「すきなおんなのこのたいぷは?」
「おにんぎょうみたいにかわいいこ」
と書かれていたのだ。
それ以来、
彼の理想の女性に近づく為に
「お人形」を意識しだした。
とは言っても
元々由依自身も「お人形」が好きだった事もあり、
別段無理をしているつもりもなく
むしろ服を選ぶのもメイクをするのも楽しかった。
大学も、
服を作る事をメインに選んだのだ。
いつか自分でデザインし、
作成した服が置かれた店を持つのが夢だった。
そして同時に、
お人形に着せる可愛い服も沢山作りたい。
そう夢見ていた。
待ち合わせ場所は駅近くの喫茶店だ。
由依は紅茶を頼み、
彼を待った。
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