第1章

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やっぱり思い出せないのは、記憶に残らないようなしょうもない内容だったからなのかもしれない。 そうだとするととんだ無駄足だ。まあ何を期待していたのかという話でもあるのだが。 少しして俺の番が回ってきた。 「1組ほったくーん ほったすすむくーん」 「はい」 集まる人々をすり抜けてタイムカプセルの前に出ると、 そこに納められた中身が見て取れた。 キャラクターの消しゴムやイラスト入りの定規などの文房具や手紙類、 しわしわになった当時の新聞や雑誌など、当時の雰囲気を伝えるという意味では 申し分のない内容だと言える。 そういう時代の遺物に見入っているとき「はいコレ」と男性教諭から軽いノリで 渡されたのは何の変哲もないよれよれの茶封筒だった。 「えっ」おもわず声がでたがそのまま受け取って元いた場所に戻る。 次にしのぶが呼ばれてほどなくして小さい包みをもって戻ってきた。 「あ、やっぱり手紙だったやろ?」 俺は黙って頷いた。 糊付けされた封筒の端をビッとやぶる。湿気をすって古びた封筒なので なかなか中身が取り出しにくい。 「見て見て、ウチ結構、記憶力良くない?」 しのぶが俺に見せてきた彼女の赤タッパーの中身は、かわいい動物のかたちの 消しゴムがいくつかとプラスチックの宝石みたいな飾りがついた髪ゴムだった。 「これね、あたしいっつも髪の毛短くしてたから、大人になったら髪の毛伸ばして 使おうって思って入れたんだよ。確か、そう。」 彼女は安っぽいがきらきらするかざりのついた髪ゴムをつまんで愛おしそうな 表情でしばらく眺めていた。が、ふいに顔をあげて俺を真正面に見た。 「ホッタンのは何だったの、見せてよ」 ニヤッと笑う。この表情は昔から変わらないな。 俺は封筒につっこんだ指をごそごそ動かして中の紙を引っ張り出した。 何の変哲もない折りたたまれたノート紙。ゆっくりと開く。 そこにあったのは衝撃の文字列だった。 赤鉛筆で書きなぐられた、小学生の頃の俺の字だ(汚い)。 『本当の お宝は べつに ある!』 ビックリマークはへたくそな飾り文字で強調されていた。 俺は掛け値なしに、文字通り、膝から崩れ落ちた。 「な、なんだこれ…!」全然記憶にない。 視線をあげると俺がおとした手紙をひろいあげてしのぶがゲラゲラ笑っていた。 まさに、文字通り、腹をかかえて。 「あー面白っ、いひっ…これ、すごい…な!」
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