第1章

3/16
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
案内状の差しさわりのない文面に目を滑らせていたが、ある部分で俺の 視線はぴたりと止まった。 『28期卒業生の皆さまにはタイムカプセルの開封イベントを行う予定ですので ぜひお越しください!』 囲いでハイライトされ小さいイラストまで入ったその「タイムカプセル」の文字。 そうだ、タイムカプセル。何かを入れた覚えがある。 卒業式近くの頃に、なんか寒い日だった…。 今の今まですっかり忘れていたが、あの時、俺は何かを入れた。 必死に記憶を手繰るが思い出せない。赤いふたのタッパー? 切れ切れのイメージだけが浮かび上がってくるな。 タイムカプセルの外見は覚えている。 ギンピカの厨房機器みたいな外見で、業者が穴掘って埋めたんだ。 校庭で長い事それ見てなきゃいけなくて寒くて辛かったんだ…。 いやいや、その時寒かったとか周辺の記憶は覚えているのに、 肝心の自分が何を入れたかは思い出せない…歳取ったもんだ。 ともあれ、ちょっと興味がわいてきた俺は参加してもいいかな、という気分に なって返信用のはがきに目を通しはじめた。 が、そこで驚くべき事が発覚したのだ。 開催日時が3月19日だと?明日じゃないか。三連休の真ん中だ。 なんだよ、普通こういう案内って1か月とかもっと前にくるもんだろ!? 半ば混乱と怒りがまじった渋い感情ではがきを眺めていたが その回答が心の中ですーっと上がってきて俺の表情は無になった。 あー、あの郵便屋、転居届がどうこういってたな。 個人的な都合で引っ越しが決まったのが一年ちょっと前だから 郵便物の転送届が切れたとかで到着が遅れたのだろう。 (思い出す限り「遅れてすいません」の言葉はなかったが) と言ってもやつの責任ではないし、転送届が切れていたのにちゃんと届けてくれた 郵便屋さんは悪くない。悪いのは引っ越した俺だ。 色々うんざりするような思い出を振り払って俺はベッドの上から時計を見た。 ただいま土曜日の午前11:02。 別に明日だって予定があるわけじゃない。仕事が一山超えたから今回の3連休は 元々のんびりする予定だったんだ。 新幹線に飛び乗れば、実家まで3時間。 同窓会へは飛び込み参加って事になるけど、まったく行けないわけじゃない。 「よし」 俺は意を決してベットから跳ね起きた。 ****** 急な旅の始まりとなった。 俺は慌てて身なりを整え、東京駅でチケットと駅弁、 ビールを買い込んで一番近い出発の新幹線に乗り込んだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!