第1章

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数時間前までは予想していなかった展開になんとなく心躍る。 いちおう同窓会事務局には電話を入れておいたがどういう番号なのか だれも出なかったので留守番電話に参加の旨と遅れて 申し訳ないという謝罪のメッセージを入れておいた。 メールでもSNSでも人と人をつなぐテクノロジーは世に あふれているというのに、手紙に電話とはいささか前時代的ではあるが 誰でも使えるという事を前提にすると仕方ないことなのだろう。 新幹線が滑るように駅から出発した。 ビール片手に焼肉とそぼろ重の弁当をつつきながら、 今回の旅行のきっかけに改めて思いを馳せる。 銀色のタイムカプセル。小学校のクラスの友達の顔。 教室の埃っぽい感じ。習字の時の墨の匂い。くたびれた遮光カーテン。 音楽室の穴ぼこ壁。図書室。 なにもかもぼんやりとは思い出せるのに、タイムカプセルに 何を入れたのか。それだけは思い出せない。自分の事なのに。 でてくるのは何かをいれた「赤いタッパー」のイメージ。 ああ、一つ思い出したぞ。赤いタッパーは俺じゃない。 あの子だ…。 変な時間に飲んだビールのせいか、いつの間にか眠りこんでいた。 プァーン。乗り込んだ時と同じように駅から滑り出ていく白い列車。 あっという間の新幹線の旅は終わり、地元の鉄道に乗り換える。 この路線に乗るのも久々だ。 いくつかの駅を通過してほどなく終点に到着。ここから俺の実家までは タクシーでもいいのだが歩いて行くことにした。 夕闇せまる大型団地のなかを、実家の方角であろう方向に歩きながら俺は考えを巡らせていた。 中豊(なかとよ)の町は昭和40年代の始めごろに拓かれたニュータウンの一つだ。 いわゆる都市中心部で働く家族のためのベッドタウン。高度経済成長の時代の象徴といえる。 その頃から昭和の終わりぐらいまではそこそこ活気のある町だったのだろうが 平成も終わりに近づく昨今、高齢化や東京への一極集中傾向などで人口は減る一方、 マンションの老朽化などが拍車をかけて、今はどんどん寂れていっている。 実際、連休の最初の土曜日だというのに、通りの人もまばらだしロードサイドのファミレスもそんなに 混んでいるようには見えない。 俺は中学卒業するまではこの町で暮らしていたが、高校からは両親に無理を言って 地元から離れた寮付きの高校に入ったので、地元にほとんど友達はいない。 小学校の友達、なんて言ってもほぼ没交渉だ。
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