第1章

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まして子供の頃の記憶など写真でも残ってない限り…。あ。 「なあ、俺の子供の頃の写真アルバムって残ってる?」 「…うーん…、どうだったかな…」 よたよたとソファから立ち上がろうとする父親を俺はいったん座らせて 居間の雑多なものがならぶ棚に向き合った。 棚の端にうっすらつもった埃が父親の普段の生活をしのばせる。 ただヘルパーさんだって限界があるので父親がそこそこ人間的な生活が おくれているならそこまでの水準は求めない。求められるはずもない。 あった。棚の上から順に目を送っていくと腰の低いあたりの棚に 『すすむ』と達者な字で書いてあるアルバムが見つかった。母の字だ。 いまはデジカメ全盛であまり使わなくなってしまったアルバムだが こういう風に置いてあると心強い厚さだ。 パラパラとめくっていく。 生まれてすぐの俺、乳児の俺、母や父や色々な親戚に囲まれている俺。 俺俺俺。自分で自分の過去と対峙するのは気恥ずかしいな。 幼稚園の年少、年中とすすんでいき、小学校入学まで時間が進む。 6年生の俺は…。いた。 卒業記念事業の一環だったらしく、ちょうどタイムカプセルを前に 教室で集合写真を撮っている写真があった.これも記憶には全くない。 いや、なかったが写真を見た瞬間色々と思い出した。 俺は最後列一番 窓側の隅っこですこし背を曲げて写っており その隣にはおなじぐらいの背の女の子が写っていた。彼女が高らかに あげた右手には赤っぽいタッパーが写っている。 が、俺の手の部分は前列の生意気そうな顔をした男子のクラスメイトの陰に 隠れてしまい何を持っているかどうにも分からない。 まさに『ちぇっ』と言いたくなる写真。 俺は保護シートをはがしてその写真をアルバムから抜き取った。 これは明日もって行こう。 その夜は出前で寿司を取り、 父親と少しだけ酒を飲んで寝た。 ******* 急な旅で疲れていたのか夢を見る間もなくぐうぐう寝てしまい、 起きるとすでに朝9時をまわっていた。よく晴れた日曜の朝。 あわてて朝食をとって身支度を整えるとまだ寝ている父親に 声もかけずに 飛び出した。 確か同窓会は11時からだが、タイムカプセルの掘り出しセレモニーは 10時からだったはず。 この年になって、遅刻遅刻と焦りながら学校を目指すなんて、 我ながら苦笑ものだ。 我が母校、中豊小学校は住宅街の一番北側の奥に位置し、裏手は 緑地公園になっている。
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