第1章

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図工の授業でよく写生のために雑木林の中 に行ったものだ。 小走りに歩を進めて、程なくして正門前までたどり着いた。 予想していたより結構な人数が集まっている。 50周年という区切りの年と いうことで近所に住んでいる各期の同窓生が 集まってきているのだろう。 昨日こっちに帰ってきてから一番の人口密度だった。 俺はきょろきょろしながら辺りのようすをうかがった。 「タイムカプセル開封セレモニー10:00より 校庭にて」との ポスターを 見つけたので、いそいそと門をくぐる。 知ってる場所だが もうすでに知らない場所でもあるのでなんとなく居心地は 良くなかった。 校庭には3、40人ぐらいだろうかの俺と同じぐらいの年齢の男女が すでに 集まっていた。今更ながらに参加届けを出してないことが気になったが とりあえず捨て置いて、その群集にまぎれてみた。 ちょうどそのタイミングで校庭の真ん中に置かれたお立ち台に 初老の男性が登り、 話し始めた。どうやら俺たちが6年生だった頃の 竹中元校長先生らしい。 『えー、皆さんとこういう形で再会できて大変嬉しく思います。さて、昨今の 世界情勢は・・・』 これは思い出すまでもなく覚えている。 この校長は話が長かった。 月曜日の全体朝礼でも容赦なく長い話を(同じエピソードの 繰り返し込みで) するためよく貧血で倒れる子供が多く出たのだ。 『このタイムカプセル事業は未来への希望という…』 マイクを通して伝わる元校長の独特な抑揚のしゃべりのせいで湧き上がってくるあくびを噛み殺しながら 空の青さを心の底から楽しんでいると、ふいにポンと肩をたたかれた。 「や。久しぶり。」 見覚えの有る顔。当然だが記憶の中のクラスメイトの顔よりは大人の顔だちだ。 「堀江。」 俺は相手の名前をつぶやいた。 堀江しのぶは写真のなかで赤いタッパーを持ってた女の子だ。 「堀田くんだよね?」 彼女は小声でそういうと、にやっと笑った。「違う人に声かけたかと思ったわあ。」 俺はどう返したらいいのかわからずあいまいにほほ笑んだ。 にしても、堀江しのぶはあまり変わってない。身長がそんなに大きく変わってないせいなのか 当時の印象に近いものがある。違ったと言えば男の子っぽい短い髪形だったのがやや長めに なったぐらいだろうか。 「ひさびさ、だな。」 俺もようやっと声が出た 「そうやね、卒業式以来?」
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