第1章

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「それぐらいかな。中学は別だったもんな」 「『ほッタン』は市立だったっけ?」 「『ほッタン』はよせよ、『ホリブー』」 自分でも驚くぐらいスラッと出てきた懐かしいあだなを呼ぶと、 堀江しのぶはまた、人懐っこくにやっと笑った。 俺たちが小学校高学年になっても仲がよかったのは 特に深い理由があったわけではなく、単純に名前順でふたりとも「ほ」、 俺が前で彼女が後ろだった、それで教室も席が近かったというそれだけだ。 『…長々とお話しましたが、それではタイムカプセルの掘り出しに 移りたいと思います』 元校長が一礼して壇上から退くと、うしろに控えていた 中年の男性教諭が電気ドリルのようなものをとりだし、 ブイイイーンと低い音を轟かせはじめた。 どんなふうに埋めたかは全然覚えてなかったが結構しっかりした 埋め方をしていたようだ。どうやら校庭の隅にあった小さい モニュメントを台座からはずす作業をするらしかった。 数十人のいい年の大人が小学校の校庭の片隅で固唾をのんで タイムカプセルの掘り出し作業を見つめているのは、客観的に みたら変な絵面だろうな。 俺の隣では堀江しのぶが身動きもせずに作業に見入っていた。 「なあ、ホリブーは何埋めたか覚えてるか?」 「うーん、なんやったかなあ。なんかのケースに髪留めとかなんか キラキラした奴入れた気がするんよね」 「ケースは覚えてるよ。赤色のタッパーみたいなやつだった」 しのぶ(俺は小学生の気分に戻りつつあった)は驚いたかの ように俺の方を見た。 「えっ、すごいね。ホッタンそんな事ちゃんと覚えてるん!?」 思いっきり感心したように言うので俺は本当に困って苦笑するしかなかった。 「たださ、オレは自分で何いれたか…覚えてないんだよ」 ポケットにいれていた当時の写真をとりだし、しのぶに渡す。 「わー、私だこれ。あ、確かにタッパーみたいなの持ってるやん」 しのぶは両手で写真をもってまじまじと眺めていた。 「あ、これハザマくんやろ、あとこれアイコちゃん…」 掘り出し作業はなんか難航しているようだった。 台座につけらえたねじ止めが思ったより錆びていてきちんとまわらない らしい。錆び落としを吹き付けながらちょっとずつおおきなペンチみたいなので 引き抜こうとしているようだ。ギイイイイギイイとすごい音がしている。 「たしかにこの写真だと何持ってるかわからんねー」 「ホリブーはなんか覚えてないか?」
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