1人が本棚に入れています
本棚に追加
1時間前。明るい教室でユーゴは一人、味気ない配給食を飲み込んでいた。
クレードルの外れにあるリグノル寄宿学校は、10年前に気象変動があった「あの日」より前の記憶がなく、家族もいないこどもが学んでいる。
自分のルーツが分からないこどもたちは無意識に群れたがる。居場所を探し、自分の形を確かめるかのように。その雰囲気がユーゴは苦手だった。
教室のモニターには国際機構からのメッセージが流れている。毎日お決まりの映像。「国際機構はあらゆる災害・危険からみなさんを守ります」
第18クレードルにあるセンタービルに、多種多様な人間が入っていく。明るく活気に溢れるビル内。全世界100億人へのメッセージはここから中枢コンピュータ「シオン」を介して発信される。ロボット時代の世界の中心。
ふと横からロボットアームが伸びてきた。ユーゴの顔は恐怖で固まった。
『2』とナンバリングされたマイキーがパックされた錠剤を渡してくる。
「別に疲れてないけど」ユーゴは左手のリストコンソールを見た。メディカルチェックで疲労と診断されたのだろう。ビタミン剤と分かっていても、飲む気にはなれない。
ロボットは嫌いだ。
発話機能のないマイキーはそのまま通り過ぎる。
銀髪のショートカット、リニーがユーゴを見たが一瞬だった。興味はないらしい。
「今日、会いに行かないか」トニアが唐突に声をかけてくる。
トニアの表情は明るいが、クラスの喧騒に紛れるような小声で周囲の様子を伺っている。
「誰にだよ」
「トムに」トニアは小声でそう言うと、ニヤっとした。「午後、歩行訓練だろ」
森の隠しトンネルのことだ。他にばれないよう、人名をつけていた。マイキーに聞かれてもネットワークに字を残しても、これならまず気づかれない。
体力維持のためという理由で、ユーゴたちは毎週校舎裏の森を歩かされる。今日がその日だった。
先生はついてこない。マイキー2台が辺りをうろちょろして見張っているだけだ。ロボットさえ騙せば授業をサボれる。
ユーゴとトニアは藪を切り開いて先回りできるトンネルを作った。
「アイツに気づかれなかったら合格な」そう言うユーゴにトニアが頷く。
「ロボットに仕切られる人生なんてゴメンだ」トニアのつぶやきにも同意だった。
そう。この世界にはうんざりだ。
最初のコメントを投稿しよう!