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1時間前。明るい教室でユーゴは一人、味気ない配給食を飲み込んでいた。 クレードルの外れにあるリグノル寄宿学校は、10年前に気象変動があった「あの日」より前の記憶がなく、家族もいないこどもが学んでいる。 自分のルーツが分からないこどもたちは無意識に群れたがる。居場所を探し、自分の形を確かめるかのように。その雰囲気がユーゴは苦手だった。 教室のモニターには国際機構からのメッセージが流れている。毎日お決まりの映像。「国際機構はあらゆる災害・危険からみなさんを守ります」 第18クレードルにあるセンタービルに、多種多様な人間が入っていく。明るく活気に溢れるビル内。全世界100億人へのメッセージはここから中枢コンピュータ「シオン」を介して発信される。ロボット時代の世界の中心。 ふと横からロボットアームが伸びてきた。ユーゴの顔は恐怖で固まった。 『2』とナンバリングされたマイキーがパックされた錠剤を渡してくる。 「別に疲れてないけど」ユーゴは左手のリストコンソールを見た。メディカルチェックで疲労と診断されたのだろう。ビタミン剤と分かっていても、飲む気にはなれない。 ロボットは嫌いだ。 発話機能のないマイキーはそのまま通り過ぎる。 銀髪のショートカット、リニーがユーゴを見たが一瞬だった。興味はないらしい。 「今日、会いに行かないか」トニアが唐突に声をかけてくる。 トニアの表情は明るいが、クラスの喧騒に紛れるような小声で周囲の様子を伺っている。 「誰にだよ」 「トムに」トニアは小声でそう言うと、ニヤっとした。「午後、歩行訓練だろ」 森の隠しトンネルのことだ。他にばれないよう、人名をつけていた。マイキーに聞かれてもネットワークに字を残しても、これならまず気づかれない。 体力維持のためという理由で、ユーゴたちは毎週校舎裏の森を歩かされる。今日がその日だった。 先生はついてこない。マイキー2台が辺りをうろちょろして見張っているだけだ。ロボットさえ騙せば授業をサボれる。 ユーゴとトニアは藪を切り開いて先回りできるトンネルを作った。 「アイツに気づかれなかったら合格な」そう言うユーゴにトニアが頷く。 「ロボットに仕切られる人生なんてゴメンだ」トニアのつぶやきにも同意だった。 そう。この世界にはうんざりだ。
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