第一章

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「っつ!」  とっさに両手で身構えた彼だが、 「…………?」 その人影が五歳くらいの少女であることに気がつく。 彼女はバットを握るかのように両手で剃刀握っていて、その刃を正弘の顔に向かって突き出している。だが、剃刀自体が怖いのか、両の眼をつむってしまっていた。 彼は軽く息をついた。 「おはよう、ミチ」  正弘は身体を起こし彼女の手をそっと握ると、空いている左手で彼女の頭を撫でた。  すると、少女は目をぱちくりさせながら彼の顔を見た。 「あっ、まーくん、おはよう!」 「今日も早いな、ミチ。えらいな」 「うん!」  褒められたミチと呼ばれた少女はくしゃ、と笑う。 そのすきに正弘は彼女の手から剃刀を抜き取る。 剃刀の刃はさび付いていて、こんなので切ったら敗血症になりそうだ。 「これはどうしたんだ?」 「パパの! まーくんのおひげをそってあげたくて!」  正弘は苦笑しながら彼女の手を取り、自分の顎に当てる。 「俺はまだ剃るほどのひげは生えてないんだよ」 「……ほんとだ!」  ミチは正弘の顎を撫でまわしながら不思議そうな顔をする。 「どうして?」 「どうして、って言われてもなぁ。まだ大人じゃないからかな?」 「まーくんはまだ大人じゃないの?」 「まだ、な」 「でも――」  そこに、窓を開けてショートヘアの女子が顔をのぞかせてきた。 「ミぃチぃ!」 「あっ、ハル」  正弘が女子の名を呼ぶと、ミチはびくっ、と肩をすくませた。 「ミチ! お父さんの剃刀持ち出したでしょ!」  険しい顔の彼女はローファーを脱ぎ、窓枠を跨いで正弘の部屋に入った。  そして、ミチを抱えベッドの脇に下ろすと、正弘の手にある剃刀に視線を走らせ……、
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