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「っつ!」
とっさに両手で身構えた彼だが、
「…………?」
その人影が五歳くらいの少女であることに気がつく。
彼女はバットを握るかのように両手で剃刀握っていて、その刃を正弘の顔に向かって突き出している。だが、剃刀自体が怖いのか、両の眼をつむってしまっていた。
彼は軽く息をついた。
「おはよう、ミチ」
正弘は身体を起こし彼女の手をそっと握ると、空いている左手で彼女の頭を撫でた。
すると、少女は目をぱちくりさせながら彼の顔を見た。
「あっ、まーくん、おはよう!」
「今日も早いな、ミチ。えらいな」
「うん!」
褒められたミチと呼ばれた少女はくしゃ、と笑う。
そのすきに正弘は彼女の手から剃刀を抜き取る。
剃刀の刃はさび付いていて、こんなので切ったら敗血症になりそうだ。
「これはどうしたんだ?」
「パパの! まーくんのおひげをそってあげたくて!」
正弘は苦笑しながら彼女の手を取り、自分の顎に当てる。
「俺はまだ剃るほどのひげは生えてないんだよ」
「……ほんとだ!」
ミチは正弘の顎を撫でまわしながら不思議そうな顔をする。
「どうして?」
「どうして、って言われてもなぁ。まだ大人じゃないからかな?」
「まーくんはまだ大人じゃないの?」
「まだ、な」
「でも――」
そこに、窓を開けてショートヘアの女子が顔をのぞかせてきた。
「ミぃチぃ!」
「あっ、ハル」
正弘が女子の名を呼ぶと、ミチはびくっ、と肩をすくませた。
「ミチ! お父さんの剃刀持ち出したでしょ!」
険しい顔の彼女はローファーを脱ぎ、窓枠を跨いで正弘の部屋に入った。
そして、ミチを抱えベッドの脇に下ろすと、正弘の手にある剃刀に視線を走らせ……、
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