第一章

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 ミチとハル。  本名は森川道子と春子。  二人とも正弘の家の隣に住んでおり、付き合いはじめは半年前、正弘が高校進学のためにこの父方の実家に再訪してからになる。  ただ厳密には春子に関しては小学校二年生のときに、同じクラスだった。  小学校三年生に上がる前に親の仕事の都合上海外に引っ越してしまったおかげで、クラスメイトの名前どころか顔すらもうろ覚えだが、彼女に関しては違う。  そう、今朝も見た夢のおかげで、彼女の顔だけは覚えているのだ。  引越しの挨拶で彼女たちの家訪ねたときの、玄関先で彼を迎えたハルのぽかんとした顔を正弘は今でも覚えている。  記憶の中で見た少女の、成長した姿がそこにはあった。 「森川?」  その名前は自然と正弘の口からこぼれ出ていた。 「……どちらさまですか?」 「隣に越してきた畑中正弘です。昔、高間小学校に通っていたこともあるんだけど」  そう言って前に住んでいた鎌倉で買ったサブレを渡すと、ハルは彼を見て、 「まさひろ……?」  と彼を指さした。  そうそう、とうなずいて見せると、柱の影から小さい影が突進してきた。 「まーくん!」  少女のフランクさに困惑しながらも、正弘は少女に尋ねた。 「こんにちは、俺は正弘っていうんだ。君の名前は?」 「ミチだよ」  なにを当たり前のことを、とでも言いたげな表情がおかしくて、彼は思わずミチの頭をなでた。  すると、ミチは目を細めながらえへへ、とはにかんだ。  そして、正弘はハルから発せられる殺気にたじろいだのだった。  そうして付き合い始めてからまだ六か月しか経っていないというのに、彼と二人の仲はまるでずっと同じ学校に通い続けた幼馴染のようだった。 現在では正弘とハルと同じ高校に通っていることもあり、週末に三人で出かけるのが習慣づいているほどだ。  正確には、ミチが正弘と出かけたがるのに、ハルが無理やりついてきていると言ったところか。  学校でこそハルは正弘と普通に接しているが、プライベートでは何かにつけて仲のよいミチと正弘の間に割って入ろうとする。どうやら、ミチをとられてしまうのではないか、と敵視されているようでもある。  だが、陽気なミチと彼女に対しては底抜けの快活さを見せるハル。正弘は彼女たちといる時間が案外好きだった。
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