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「ミチ、今日の遊園地は楽しみ?」
「うん! 楽しみ!」
それを聞いて、正弘は思わず口元を緩ませながら頷いていた。
「晴れてよかったな」
先を行くミチから目を離さないようにしながら、ハルに話しかける。
「……うん」
彼女はなぜか不安そうに冬の寒空を見上げた。
つられて見上げる。
晴れ渡った空だ。
――あれ、なんだか。
いつもと同じ空なのに、妙な懐かしさを覚える。
「なあ、ハル。これってなんとなく――」
なんとなく八年前のあの“雨”が降ったときみたいじゃないか?
そう訊こうとして見ると、彼女は肩から提げたかばんの中身を確認していた。
そしてそこには、
「お前、折りたたみ傘なんて持ってきてるの?」
彼女が持っていたのは間違いなく、二十センチほどの折りたたみ傘だった。
「……悪い?」
ハルは万引きの現場でも見られたような顔をしながら、口調を荒くした。
「いや、悪くはないけど……」
「言っていたのよ。“今日は雨が降る”って」
「誰が?」
「…………」
抜けるような快晴。雨が降る気配など、毛ほどもなかった。
「なぁ――」
再び視線を降ろしたときには、
「みぃちぃー!」
「うわっ!」
ハルはミチを背後から羽交い絞めにしていた。
目的の遊園地につくと、正弘はふと、空に目をやった。
冬特有の乾燥した天気で、雨の気配は感じられない。
遠くに飛行機が飛ぶ。
入道雲が見える。
冬にしては珍しいもののような気がした。
「よし、じゃあチケット買いに行こう!」
「そうだね!」
ミチはハルと顔を合わせながら、なんだかにやにやしている。
――なにか企んでいるな?
『こんにちは。何名様ですか?』
チケットカウンターで女性に挨拶され、チケットの購入枚数を訊かれた。
正弘が財布を出すと、
「今回は私たちのおごり」
とハルが意味ありげな視線をミチに投げかける。
「特別にね」
「ねー」
不審に思いつつ、成り行きを見守る。
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