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すると、ミチが大きな声で叫んだ。
「大人三枚でお願いします!」
『……えっと、大人、三枚?』
スピーカーを通して女性の困惑している声が聞こえてくる。
正弘が怪訝そうにハルを見ると、彼女は「いいから黙ってろ」と目で合図してきた。
どうサバを読んでも小学校低学年くらいの少女を見て困ったような笑みを浮かべる女性スタッフに、当の本人は鼻を鳴らした。
「ほんとはね、まーくんはまだ大人じゃないんだよ。おひげはえてないから。でも、まーくんだけ仲間はずれは可哀想だから、みんな大人なの!」
それを聞いたスタッフはクスリと微笑んだ。
『あなたは気遣いのできるちゃんとした大人なのね』
「おこづかい? えっと、たしか……」
ミチはかばんの中を漁って財布を取り出すと、
「はい!」
と中身をトレイにぶちまけた。
『あらあら』
女性は笑った。
『お金持ちなのね』
「うん!」
ミチはそれを聞いてうなずく。
「でも、これでちょうど“ぜろ”になっちゃった!」
スタッフは首をかしげ、それからトレイの中を見た。そして、ガラス越しにそれを受け取ると、
『あら! ほんとにちょうどある!』
ミチは腕を組んでどうだ、とばかりに口角を上げる。
「ちゃんと計算してきたんだから!」
『すごいわね! じゃあ、これがチケット』
女性スタッフはチケットを差し出す。
『そこのゲートに通してね。ちゃんと取るのも忘れないように』
「わかった! ありがとう!」
ミチはもらったチケットを葵の家紋の入った紋所のようにかかげながら、にこにこと歩いていく。
女性スタッフは正弘と目が合うと、
『楽しんでいってくださいね』
「あの……ご親切にありがとうございます」
正弘は礼を言いながらミチの後を追う。
すると、スタッフに目礼をしてから彼の横にならんだハルが、
「お前、ああいう人、ストライクなんだ?」
「!!!」
いろんな意味でど真ん中の直球を放り込まれた正弘は、思わず立ち止まった。
「わっかりやす」
「……このっ!」
にやつくハルにローキックを放つが、余裕で回避されてしまった。
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