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休日ということもあって、園内は混み合っていた。
それでも入場から三時間ほどで目当てにしていたアトラクション(特にミチが乗りたがっていたもの)のほとんどは消化し、三人は遊園地を順調に満喫していた。
「今日は来てよかったな」
「うん!」
ミチと正弘はそんな話しながら微笑みあった。
だが、昼過ぎに場内に響き渡ったアナウンスで、状況は一変した。
『ご来場中のお客様にお知らせいたします。ただいま、園内にてトラブルが発生し、入場ゲートを一時閉鎖させていただいております――』
最初は喧騒にまぎれていたそれに耳を傾け、立ち止まる客が次第に増えていく。
「なんだか、変なことになっているみたいだな」
正弘はハルに言った。
「まあ、まだ帰る予定ではなかったし、いいんじゃない?」
楽観的なハルはミチに抱きついていた。
そして、そのままの体勢で顔を覗き込むようにしながら
「そろそろ、お昼にしようか」
「えぇー?」
入場前とは打って変わって、ミチは不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「もう帰らないと」
「え?」
ハルは目をしばたかせた。
――あれだけ楽しみにしていたのに、自分の目当てのアトラクションに乗り終わったらこれだよ。
正弘は苦笑いした。
「帰りたいー」
ミチが眉間にしわを寄せ、両腕を振りまわす。
ハルが微笑を浮かべながらミチの顔を覗き込む。
「じゃあ、ミチの好きなカレーを食べようか。それから、ほかのアトラクションも見てみよう? ね?」
「むー」
いつもなら“カレー”と聞いた瞬間、条件反射的に表情を明るくするミチがむすっ、としたままだった。
「どうしたの? カレー食べたくないの?」
ハルの問いかけに、
ミチは仏頂面で、空を指差した。
「だってはやく帰らないと、雨が降ってきちゃうよ」
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