159人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「花は散ってしまうけど、枯れたわけやない。季節は巡って、また花は咲く。そして、皆また桜のことを思い出す。忘れていても、また思い出す」
諭すように言葉を繋ぐ彼の横顔を不思議な気持ちで見上げていた。
私は、懸命に何かに抗っていた。
消えゆくもの。
忘れゆくもの。
すべて失いたくないと。
けれど、彼の言葉はストンと胸に落ちた。
どこかでホッとする自分がいた。
「…そうやね」
肩の力が抜けて、自然と口元が綻んだ。
「私も…あなたのこと忘れたいと思ったことあったけど、やっぱり忘れられんかった…」
震える声で本心を吐き出し、ぎゅっと彼の手を握り返す。
すると、彼が私をグイッと引き寄せた。
ああ…彼の匂い…
懐かしい感覚に身体を預ける。
そして、気付く。
漸く彼と触れ合えていることに。
最初のコメントを投稿しよう!