静心

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ああ…そうか。 この時が来たのか。 そう自覚した時、一気に蘇る。 消え去ったと思っていたものが。 忘れ去ったと思っていたものが。 失ってなどいなかった。 自分の奥の奥にしまっていただけだ。 「大体、待っとけって言って、いっちょん帰ってこんし!」 「うっ…すまん」 彼は謝るが、積年の恨みをぶつける。 「遅い!待ちくたびれたやん!」 「そう言うな。すぐには迎えに来れんかった」 困ったように笑うのは、ずっと忘れられなかった人。 「だって、お前が幸せだったから」 その通り。 あなたがいなくても、私は幸せだった。 心の中には、必ずあなたがいたから。 だから、これまで生きてこられた。 彼が私に手を差し出した。 その意味を噛みしめて、その手を取った。
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