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花びらの中で
「きれいなお月様、明日は京都で仏像の見学か。楽しみだわ。うふふ、京都は初めて訪れる土地。東京からだとどれくらいかかるのかしらね」と言いながらベランダでコーヒーを飲み、月を眺める小夜だった。そんな小夜が、生まれて初めての一目惚れをした。
翌日小夜は京都へと向かった。
京都駅に着いた小夜は「さあ、京都の仏像を見に行こうかな」と呟くとバスターミナルよりバスに乗りお寺巡りを始める。古くからのお寺の多い京都には、仏画士を目指す小夜にとって宝の宝庫だった。
小夜は、仏像を見る度にその曲線美にため息がでた。そしてその表情に惹きつけられた。美しいこんな美しい仏像を自分が描くんだと思うとワクワクしてくるのだ。小夜は仏像見学3日目に宇治の平等院へとやってきた。そこで阿弥陀如来像を見てまた感動していた。そんな小夜を見つめる瞳があった。短髪の黒髪に作務衣姿の彫りの深い顔立ちをした男が小夜を見つめていた。その視線にふと気づき小夜は顔を向けて相手を見た。見られた男は眼をそらすことなくジッと小夜を見つめる。見つめられてドキドキとなり赤面する小夜。小夜は思わず男に声をかけていた。
「あの、私の顔に何かついていますか」話しかけられた男性は視線をそらし「いえ、何もついていません。すいません。あなたのお顔が阿弥陀如来像に似ていたものでつい見てとれてしまいました」
「私が阿弥陀如来様にですか。光栄ですけど、似ていないでしょ」と返すと笑う小夜だった。相手は、真剣な顔をしながら言う。
「いいえ似ていますよ」
「あのう、そんなに言われたの初めてです。私、東京の大学で仏画士になるために勉強中なのです」それを聞いた
相手は顔がぱっとほころんだ。
「ああそうなのですね。私は嵯峨野に住んでいて仏像を彫って暮らしている塩見竜也と言います。同じ仏像関係の仕事に就く方だったのですね、それは光栄です」と言うと頭を下げた。
「あの、私はまだ学生で仏画士を目指している者なので、頭なんか下げないでください。恥ずかしいです。まだ勉強中ですし、でも来年は仏画を描く仕事に着くことになっていますけど」といつになく多弁な小夜だった。
「あの、良かったら家に来られませんか、仏像の資料もありますので見て行ってください」とはにかむように塩見に言われた。小夜は一瞬迷ったが、
仏像を彫る彫刻家と聞いてとても興味を引かれた。
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