2,雨の日に

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ふと空を見上げれば、ぽつぽつと小さな雫が頬を濡らした。 え?と思う間もなく雨粒は次第に大きくなっていき、バケツをひっくり返した様な雨が降り始めたた。 朝天気予報を見てくれば良かった、なんて今更ながら後悔する。折り畳み傘を持つ習慣なんてないから傘なんか持ってるはずもなくて慌てて近くの店の軒下に駆け込んだ。 「…最悪だ」 今年の春大学に入学出来たご褒美にとバイト代を奮発して買ったお気に入りのジャケットが水分を含んでグッショリと重くなっていた。 こんな事なら次からちゃんと折り畳み傘をカバンに入れて置こうと反省していた時、バシャッバシャッと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。 「最悪…」 つい何秒か前自分が言った事と同じ台詞を吐きながら軒下に駆け込んできた女性。 スーツもショートカットの髪もびしょ濡れになりながら1人分空けて隣に並んだその人は自分より少し歳上くらいの綺麗な人だった。 不機嫌そうに眉間に皺を寄せてバッグの中からハンドタオルを取りだし髪や顔を拭いている。 その仕草も様になっていて不覚にも胸がドキリとした。 自分の周りには居ないタイプのその人はつい最近まで高校生だった自分には魅力的に見える大人の女性という感じがした。 「「…あっ」」 じっと見すぎたのか視線に気付いた女性がこちらを見つめる、お互い同じ様な反応をして視線が交わる。 「ごめんなさい、いきなりだったから慌てて来ちゃって…まさか先客がいるとは思わなくて」 「あ、いえ。こちこそすいません、不躾に見てしまって」 恥ずかしそうに笑う女性を見ながら、改めて綺麗な人だと思った。 髪先から落ちる雫すらその人の女性の魅力を際立たせるモノにしかならない。 こんなに初対面で名前すら知らない人に惹き付けられるのは初めてだった。 「あなたも傘を用意してなかったんですか?」 「あ、はい。天気予報見てなくて、いきなり」 「あ!私もです、天気予報見てなくて傘置いて来ちゃって、まさか降るなんて思ってなかったから」 「同じですね、僕は傘持ち歩かないんですけど今度からカバンに入れて置こうと思いました」 私もそうします、と小さく笑う女性。 それに釣られて自分でも笑っていた。 何処にでもありふれた場所、見慣れた場所なのにこの人といると別世界に来た様な気がした。 特別なとこにいるんじゃないかって錯覚に陥っている様に思えた。
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