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「仕事の途中ですか?」
「えぇ、まぁ。取引先から帰る所だったんです。この雨止まないと帰れそうにないですけど」
「そうなんですね、確かにこの雨激しいですね。」
そう話しながら前を見れば相変わらず叩きつける様に降り続く雨。
ゲリラ豪雨ってやつで、梅雨が近付いている事を教えている様に思えた。
少し入り組んだ所にあるこの店の前は余りこの夕方近くの時間は余り人が通らないのかはたまた雨のせいか誰も通る気配はない。
「学生?それとも仕事帰りですか?」
「あ、僕大学生です。今日は講義が早めに終わったんで帰ってる途中で雨が降って来ちゃって」
「そうなんですね、良いなぁ大学生かぁ」
戻りたい、そう言って笑った女性はまだ卒業して間もない様に見えた。
「あの、失礼かと思うんですけどおいくつですか?」
「ん?いくつに見えますか?」
「えっと、23歳…?」
正直に答えればクスッと笑う女性。
「外れ、でもありがとうって言っておきます」
「え?」
「私、今年25歳です」
「え、見えないです、てっきりまだ大学卒業したばかりかなって」
「ホントに?」
頷けばありがとうと笑う女性、冗談抜きで大学生と言っても通るくらいでてっきりいってて23歳くらいだと思っていた。
自分より6個歳上に見えない人だった。
それからも他愛ない話を沢山した、いざ社会人になれば大変な事が沢山あるとか、趣味の話。
こんなに誰かと話していて楽しいと思った事はなかった。
いつの間にか打ち解けて、少し心を許してくれたのか砕けた口調で話してくれる様になった。
雨がこのまま止まなければ良いのにって思った。
それでもいつか雨は止むモノで。
「あ、雨止んだね」
女性の言葉に顔を上げれば雨は止んでいた、ハッとして女性を見ればニコッと笑顔を向けられた。
「私、戻らなきゃ。キミも気をつけて帰ってね」
「はい」
「雨に濡れたのは最悪だったけど、色々話せて楽しかったよ」
「こちらこそ楽しかったです、仕事頑張って下さい」
「ありがとう、キミも頑張ってね」
それじゃあ。と言って軒下から出て行く女性。
話していた時間が名残惜しくて思わずその手を引きそうになる。
けど、少し届かなくて伸ばした手は空を切った。
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