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数十個のコロッケの浮き沈みが激しくなってきた。コロッケは気泡をぼこぼこと乱舞させながら、上昇を始めている。
潜航艇の行く手を、茶色の塊りがクラゲのように横切っていく。
長門は舵を左右に操作してコロッケの集団をやり過ごそうとするが、ごんごんと艇に追突してくるのだ。
艇は上下に波打ち、艇は直角に横転した。長門の体は横向きになり、次の瞬間、別の衝撃が襲った。
艇体はさらに傾いた。
ふわりと浮き上がるような感覚だった。長門の体は上を向いた。
潜航艇は、高温の油底で転覆したのだ。体勢を元に戻さねばならない。
気温28℃。29、30、31・・・・40・・・
温度計の目盛り瞬く間に40℃を越えた。
艇内に警報が鳴った。
全身が燃えるように熱い。
潜航艇の浮揚装置が作動し、長門の体はまた腹這いの姿勢に戻った。
長門は全身にムズ痒さを覚えた。環境対応の代謝機能が働きだしたらしい。
これこそがカズユキが開発した身体防護機能だった。
手足の皮膚が漣状に隆起していた。蕁麻疹に似た皮膚炎症。
すぐに、腫れあがった皮膚は角質化の過程にはいった。みるみるうちに、象皮のように固くなっていく。この時、長門は体が水に濡れているのに気づいた。
汗か。
汗ではなかった。冷たい成分が皮膚の内側を流れているのを、はっきりと感じた。体内に水流が出現したようなな感覚。それが濡れているような錯覚をもたらしたのだ。
気温65℃。
酸素残量 あと3分。
ソナーが反応した。緑色の光点が3時の方向を示している。
長門は舵を右に切った。艇はゆっくりと転舵すると、その方角を目指した。
長門は作業用の装置を準備した。
艇首から、ザリガニの鋏み似たアームが伸びていく。長門はトリガーを左右に操りながら、ジュラルミンケースに接近した。
50億のカネしてはケースの量が少ないな。
頭の片隅で考えたが、今は回収作業に専念しなければならない。
身体防護機能のお陰で作業は順調だが、空気は残り少ないのだ。慎重と手際が要求される。長門はアームの先端の動きをミリ単位で調整していく。息を止め、微妙な感覚をトリガーに伝える。
がつんと軽い響きがあった。
ザリガニ鋏みは、がっちりとジュラルミンを掴んでいた。
よっしゃ、浮上!
その時だった。警報がまた鳴ったのだ。
気温75℃。
艇体に亀裂あり。
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