油温175度

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          1  カズユキは人工知能ではない。人工知能ではないが、超人的なプログラム能力に長けているマッドサイエンティスト高校生だ。幼少時からコンピュータープログラムの英才教育を受け、6歳にして難易度の高い複数対戦型ゲームを考案し、10歳のときにはホワイトハッカーの国家試験に合格した逸材である。  中学生になるとDNA遺伝子と人工頭脳の合体プログラムを実践に移した。  それは時限装置つきの体力増強プログラムだった。  スマホのアプリケーションから大脳と小脳に特殊信号を送り、強靭なパワーを生み出すというものだ。まだ実験段階だが、実用化されれば生活向上に役立つはずであった。 「そのカズユキが自らの臨床実験で、暴走中ということかあ!」  モニタつきの装甲車の鉄扉が勢いよく開いて、30前後の長身の男が入って来た。カーキ色の迷彩服を着ている。手には軍用の携帯無線機が握られていた。 「そうですよ、見て下さい。あいつを」  茶髪の若い男がモニタを見つめたまま答えた。 「自分が神様だと思ってやがる。信号もATMもハッキングされて、町じゅうが大パニックですよ。どうします? 射殺しますか」  若い男は今度はポケットからキャンデーの包みを取り出しで、かりかりと齧りだした。  カズユキは画面の中で、自分の肉体と連結されたパソコンのキーボードをひたすら連打していた。カズユキは顔を上げると、モニタに向かってピースサインを繰り出した。 「こいつ、おれの歯で砕いてやりてえ」  キャンデーを咀嚼する音が大きくなった。 「まあな、もっともだ」  背の高い男は相槌をうった。 「だが、上の人間は生け捕りにしろとの命令だ。奴の能力はコンピューター以上だから、未来の可能性を摘みたくないといのが、その理由さ」 「へ。そうなんだ。おれたちゃ、傭兵だからな。カネのためならお上だろうが悪魔だろうが言う事ききますよ。で、どうします、班長。作戦はありますか」 「ゆっくり議論しているヒマはない。実は奴の次のターゲットは原子力発電所と防衛省の迎撃ミサイルシステムらしい」 「え、奴はホワイトハッカーの資格者でしょ。とんでもない野郎だ。ここはやっぱり、強行手段に出た方が・・・」 「だめだ。あと五分で奴は国家のセキュリティを解除してしまう」
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