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金持の道楽はとどまるところを知らない。当たり前の刺激では満足しないのだ。それは、マスコミも同じだった。テレビカメラの放列はずらりと並び、レポーターたちが面白おかしくコメントしている。視聴者も刺激を求めているのだ。
それでよい。
これは、新しいリアルドラマの始まりなのだ。フィクションでは味わえない生の迫力。
俺の発信したニセ情報に国税局は飛び付いた。彼らは傭兵を使って、プールの底に隠してある50億円を探し出そうとしている。50億ではないが、5億のカネをプールの底に隠してあるのは事実だ。無事に発見されたら、全額を賞金にするつもりでいる。
油の底から生還できなかったら・・・。リアルドラマにはリスクが伴う。
だからこそ次世代の視聴者は喜ぶのだろう。
そうはいっても、緊急救命システムは別途準備されているから、ギリギリの状況であの青年は救出される。
成功すれば、極限状況を乗り越えた証になるのだ。
リー・副島は、傍らの眼鏡をかけた痩せて神経質そうな男に声をかけた。
「ギャラリーをこれ以上待たすわけにはいかんな。あの、お調子者の司会者に、始めろと伝えろ」
「はい、伝えます」
神経質そうな男は甲高い声で返事をすると、派手な服装の女性タレントの方へ歩いて行った。
カメラの放列が一斉に、痩せて神経質そうな男に向いた。
女性タレントがマイクに向かってしゃべっているが、音声は副島に耳までは届かなかった。
副島は、ガントリークレーンのガーターから吊り下がっているコンテナを見上げた。
スーツの内ポケットから小型の通信機を取り出してスイッチを入れた。
「はい、クレーン運転室です」
「わたしだ。やれ」
「わかりました。では御覧ください」
4
長門飛鷹は腹這いになったまま、文庫本ほど小さな艇窓から外を眺めた。
10メートルほど向こうに、ワイヤーに吊られた赤いコンテナボックスが見える。
赤いコンテナが降下していき、油面までぎりぎりのあたりで、四方の面が開いた。ばさばさと、巨大なコロッケが落下していく。
1個、2個、3個・・・
一か所に集中的に落下させると、コロッケ同士でくっついてしまうため、クレーンはレールの上を移動しながら、降下地点を変更していく。
長門は計器盤に視線を転じた。温度計、速度計、深度計。それと長門の体と直結した代謝機能調整係数計。
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