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とりあえず美香先輩がいないか周囲を見回してから近寄った。
「ここ、空いてますか?」
「あ……はい。どうぞ」
返事しながら顔を上げた成瀬ちゃんの顔が、途端にびっくり顔になった。
どうやら相原君が戸川っちの連れだと、ちゃんと知ってるらしい。
ここで黙り込んではいけない。
物事は勢いだ。
「成瀬さんでしょ?有名人だから知ってるよー。俺、同期の相原」
ちょっとやりすぎたか、成瀬ちゃんの顔が引きつった。
これじゃナンパ野郎と大差ないけど、もはや引っ込みつかず。
「海事の戸川なら知ってる?あいつと一緒」
「あ、はい」
戸川っちの名前を出すと、成瀬ちゃんのひきつった愛想笑いが真剣な表情に変わった。
「あの……」
成瀬ちゃんが何か言いたげに口籠もり、ちょっと切ない顔でじぃっと相原君を見つめた。
……嗚呼。
こんなことなら、昨日散髪しとけばよかった。
ネクタイ、もっといいやつにすればよかった……。
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